東京高等裁判所 昭和51年(ラ)578号 決定
(一) 抗告人は、千葉市に父堀切弘とともに居住する者であり、相手方は、全国各地に医療機関等を設置して社会福祉事業を行なう社会福祉法人であって東京都に本部を、大阪市ほか全国四〇か所に支部を設けているものである。
(二) 本件損害賠償請求は、抗告人の母亡堀切かをるが昭和五〇年五月相手方大阪支部に属する大阪市北区所在の大阪府済生会中津病院において乳房切断手術を受けた際に生じた医療上の出来事に関するもので、医療過誤の有無が争われている。
(三) 双方から申請された証人六名のうち抗告人側一名、相手方側四名は全部大阪府またはその附近に居住する医師であり、残る抗告人側証人は抗告人の父堀切弘である。
(四) 右堀切弘は、前記堀切かをると昭和五〇年四月一日協議離婚し、抗告人の親権者を母堀切かをると定めていたが、同女が同年五月一八日死亡したので、同年一〇月二二日、堀切弘が抗告人の後見人に就任したものであり、前記乳房切除に関する契約を相手方との間に締結した者は堀切かをるであった。さすれば、証拠方法は多く大阪地方裁判所管轄内にあり、ことに重要であると思われる医師である証人の居住する場所は大阪府またはその附近にあって、しかも、前記損害賠償請求訴訟の内容からみて、大阪地方裁判所で審理を受ける抗告人の負担より、東京地方裁判所で審理を受ける相手方負担の方が大きく、審理の進行も大阪地方裁判所においてした方が速やかであると推認するに難くない。また、仮に抗告人の法定代理人である抗告人の父堀切弘が小企業の会社役員であり、相手方が全国有数の大病院であって、抗告人側に比較し経済的に遥かに優位にあるとしても本件訴訟を大阪地方裁判所に移送することによって生ずる抗告人の損害は相手方に生ずる前叙負担による損害に比べ少ないものと認められる。そして、普通裁判籍のみではなく特別裁判籍も被告に防禦を尽させるためにも設けられたものであり、普通裁判籍と特別裁判籍とが競合する場合訴提起の際原告に一応の選択を認めたうえで、これにより著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると裁判所が認めるときに他の管轄裁判所に訴訟の全部又は一部を移送することを認めた民訴法三一条の法意は原被告双方の利害得失、さらにいずれの裁判所が審判した方が訴訟遅滞を避け得るかの点を考慮して移送すべきか否かを判断すべきであると解すべきであり、右法意からすれば、前叙のような場合は同条にいう著しき損害又は遅滞を避けるために必要である場合に該当するというべきである。
(吉岡 園部 兼子)